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第2話「さらば愛しきわが人生」
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城瀬のピアニスト人生は努力をひたすら続けることで、どうにかこうにかプロとして歩むことができた道のりだった。さしたる才能があってピアノを弾き始めたわけもなく、彼がピアノを弾き始めたのはほんの些細な偶然からくるものだった。
初めてピアノの音色を聴いた時、鳥肌が立ったことを今でも鮮明に思い出せる。魂が震えるとは、きっとああいった経験のことを言うのだろう。音の一つ一つが、手に取るように聴こえた。どこでその演奏を聴いたのかまでは残念ながら思い出せないが、大事なのはその演奏を聴いたことで城瀬のピアニスト人生が始まったことだ。
小学校五年生くらいの頃から、ピアノの練習を始めた。可もなく不可もなく、ピアノを演奏する人間なら誰もが通る道である挫折も幾度となく味わった。中学に上がる頃には、同時期にピアノを始めた同級生たちが一人、また一人と辞めていった。その中でも城瀬だけは飽きることなく、ピアノを続けた。辞めていく友人たちに、後ろ指をさされ嫌がらせを受けたこともあった。
順風満帆とは、とても言い難い。
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