第1話「白と黒の鍵盤」

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 (だ、大丈夫だよね? 気づくよね?)  いや、気づいていない!  「城瀬さーん!」  見送ったばかりの城瀬に、奏は必死に呼びかけた。やや距離が開いてしまったが、城瀬が奏での声に気づく様子はなかった。だが、奏同様に異変には気づいた。  「くそっ……!」  背負っていたリュックを投げ捨て、必死に少年の下に走り出す。普段運動とは無縁の生活をしているせいか、思うように走れない。夢の中で走っても走ってもスピードが出ないような、そんな感じだ。だがトラックは間違いなく少年のそばに向けて走ってきている。フラフラ運転している理由は分からないが、どこかで間違いなく事故が起きてしまうだろう。  神なんて信じてはいない、けれど神がいるなら今この瞬間だけ――間に合え!  「えっ、城――」  少年がそう言うよりも早く、城瀬は少年の左腕を引いて道路から引き離そうとした。思っていたよりも少年の体重は軽く、運動不足の城瀬でもグイっと引くだけで容易に手繰り寄せることができた。  しかし、位置的には丁度入れ替わる立ち位置になってしまった。     
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