7人が本棚に入れています
本棚に追加
/45ページ
だが、それでも城瀬はピアノを続けた。高校に入り、音大に進む頃には彼をさげすむ者はどこにもいなかった。ただ、愛想の悪さは今とあんまり変わっていないのがたまにキズではあるが。
二十代になるも、残念ながらすぐに目が出ることはなかった。間黒星二が名を馳せるようになってからも、城瀬の暗黒期は続く。メディアの取材で城瀬のこれまでについて聞かれた時、「どうしてピアノが続けられたんですか?」という質問に彼はこう答えている。
「辞めたらどうにかなるなら辞めている。辞めてもどうにもならないから、ピアノを愛することを選んだだけです」
◆ ◆ ◆
瞼が重い。大学生の時、滅多にしない深酒を友人につられてした時以来の瞼の重さを感じる。しかもおまけに全身のあちこちが痛いし、いっそそのまま眠っていられればよかったと思うくらいだ。
「……」
どこだ、ここは。
やっとの思いで瞼を開けると、真っ白な天井が見えた。横たわる身体を起こそうとするが、脳の命令に対して身体は必死に抵抗している。どちらかと言えば、行動したくても行動できないと言った方がいいか。
「だ、れか、いないか……」
これまた思うように声が出ない。すらすらと発していると思った言葉は、途切れ途切れで歯切れが悪い。
最初のコメントを投稿しよう!