第2話「さらば愛しきわが人生」

3/15
7人が本棚に入れています
本棚に追加
/45ページ
 首だけは割と動くようで、自分の身体を見ると見なければよかったと後悔した。何せ両腕とは包帯とギプスに巻かれており、左足はブラリと釣られて固定されている。一瞬どういう状態なのか分からなかったが、脳がやっと思考に追いついてきた。  (そうだ、俺はあの時トラックに轢かれたんだ……)  ボロボロの身体を見ると、改めて自分が轢かれたことを再認識できた。ピアニストの癖に、この有様はどう説明すればいいのやら。これで職務精神旺盛な警官の自己犠牲の末の結末であればまだ格好がつくところだが、生憎城瀬は一介のピアニストにすぎない。  比較的クールな城瀬だったからこそ、状況をすんなりと受け入れることができたのだろう。人によっては取り乱してしまうことだってあり得た。しかしそれを冷静に受け入れられたからと言って、状況が一変するわけでもない。  唯一動く首を動かすと、ベッドの隣の椅子で奏がうつらうつらと舟を漕いでいた。運び込まれてどれだけの時間が経ったのかは分からないが、奏の目の下のクマを見る限り彼女が苦心してくれたのは間違いないだろう。  「ん……あ、城瀬さん! 目が覚めたんですね! よかった……本当によかった」  「いてて……もう少し、声を、小さく……」  「あっ、すみません……今看護師さん呼びますからね!」     
/45ページ

最初のコメントを投稿しよう!