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「ひどいもんだ……自分の身体とは思えないな……」
「城瀬さん……」
改めて自分の両腕を見る。感覚が完全にないわけではないが、この腕がつい先日までピアノを演奏していた奴の腕だとは到底思えない。有名な言葉に、ピアニストは一日ピアノを弾かなければ三日分腕が落ちるという言説がある。既に一日どころか三日もピアノを演奏していないのだから、相当腕は落ちているだろう。どころかこれからしばらくピアノを演奏することはままならないだろう。
もう、あの華々しい舞台に帰ることは――できないのかもしれない。
「ははっ……」
いつの間にか、涙が溢れていた。今まで、どれだけ絶望してもピアノを演奏することができたから乗り越えられてきた。けれど、その一番心の拠り所だったピアノを演奏することを奪われてしまったのだ。
「なぁ、俺はこれからどうしたらいんだろうな……」
奏は困ったような表情をしたが、おもむろに城瀬の包帯に巻かれた腕に手を置いた。
「大丈夫、大丈夫だから。まずは身体を治すことを考えよう?」
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