第1話「白と黒の鍵盤」

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 次いで、司会の案内で舞台に立ったのは先ほどの城瀬よりやや背が高い男だった。間黒星矢、城瀬よりも早く業界の中で大成したピアニストである。年齢は城瀬より一つ年下だったが、先ほどの城瀬よりも愛想はいい。笑顔で観客たちの拍手に答える。メディアに露出することも多い彼はルックスも良く、女性客からは黄色い声援を受けてはそれに笑顔を返していく。  演奏が始まると、先ほどの城瀬とは違い伸び伸びとした音色で観客を魅力していった。雄々しい音色は時間を忘れさせ、気づいた頃には「もう終わってしまったのか」と言わんばかりの充足感を与えてくれる。  この二人、城瀬と間黒は同世代の中では二大スターと呼ばれていたる二人だった。 ◆   ◆   ◆    「今日の演奏会も素晴らしい演奏でしたね、城瀬さん。やはり持ち前の才能があってこそ、こうした演奏が輝くのでしょうか?」  こうした記者の質問を受けるのは、果たして何度目だろうかと城瀬は嘆息する。元々メディア嫌いであることは世間も周知しているはずなのだが、いい加減別の質問はないものなのだろうか。  「いえ、日々の努力があってこそのものだと思います。それじゃ、片付けが残ってるんで」  いつものように記者からの質問を撒く。こういえば記者も大概追ってこないし、こっちも下手にあれこれ考えて今より印象を悪くするようなセリフを吐くこともない。人気があるかないかなんて、演奏家としては大事だが個人としてはそこまで執着するほどのものでもないとも思う。     
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