第1話「白と黒の鍵盤」

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 控室に戻る道すがら、同じようにテレビの企画か何かで営業用のスマイルを作っている間黒を見かけた。自分も彼のように自然な笑顔を作れたらどれほどいいかと思う。どうやら演奏会とは関係なく、テレビのバラエティ番組か何かの密着だったようだ。  「ん? あれは……」  視線の先にいたのは奏みはるだった。奏も城瀬と間黒と同じ世代のピアニストで、確か城瀬の一つ上か下かどちらかだったはずだ。間黒同様にルックスがよく、最近メディアは彼女をなんとか売り出せないかと躍起になっているそうだ。ピアノの腕は業界の中では中の下くらいで、到底ピアノだけでは食べていけないと以前どこかで自虐していたのを聞いた。  ちなみに間黒と一緒にいるのは、彼女もその企画に出演しているからだったようだ。美男美女の二人が揃ってカメラに映ればさぞ見栄えもいいことだろう。  城瀬もたまにメディアに露出することはあるが、色白を通り越して白すぎる城瀬の顔はあまりテレビ映りがよくないらしい。別段彼らに嫉妬しているわけでもないのだが、思うところがないわけではない。これが芸仕事だと思って割り切るほかないのだ。  一応片付けがあったのは本当だった、嘘はつかないのが城瀬の信条である。  控室を出ると、丁度城瀬と奏が廊下で誰かと話しをしているのが見えた。と言ってもメディア対応は終わったようで、間黒もビジネススマイルを仕舞っている。  (誰と話してるんだ……?)     
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