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視線の先には中学生くらいの男の子がいる。普段は関係者以外立ち入り禁止だが、どうにかして入り込んできたのだろうか。いかんせん警備の連中も子供いは甘いということだろうか。ともあれ、ここまで入ってくるのだから相当な間黒のファンなのだろう。今日はおまけに美人の奏もいるのだから、彼は相当な幸運の持ち主だ。
とはいえ、今から帰宅する城瀬には関係のない話し――いや、関係あった。
なぜなた出口は彼らの先にある通路からしか出られないのだ。普通ならば「いやいや、通り過ぎるだけでしょ」と思うかもしれないが、城瀬と間黒の間柄は非常にぎくしゃくしている。表面上仲が悪いわけではないのだが、間黒が城瀬に対してあまりいい印象を持っていないことを薄々感じている。なので黙って素通りするだけでも少々気を遣ってしまうのだ。
「仕方ない、終わるまで待つか……」
と、再び控え室に戻ろうとした時だった。偶然にも、彼らの会話の内容が聞こえてしまった。盗み聞きするつもりはなかった、こうして聞こえてしまうと自然と聞き耳を立ててしまうのもまた人間というものだ。
「あの、どうしたら間黒さんみたいなピアニストになれますか? ぼ、僕も間黒さんや城瀬さんみたいなプロになりたくて……。来月から留学するんです。それで、何かアドバイスが欲しくて」
「ふむ……」
間黒は城瀬の名が出た瞬間だけ嫌そうな表情を浮かべたが、そこは流石に芸能を嗜むものとして大人の対応を見せた。奏でも見つめる中、間黒はしばらく黙考する。
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