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視線の先にいたのは、先ほど間黒に会いにわざわざ警備を抜けてやってきた少年だった。直接姿を見たわけではないが、あの消沈ぶりからすると間違いないだろう。見ている方が気の毒になるくらいに落ち込んでいる。
我ながら嫌な推理ではあるが。
さっさと帰ろうと、足を踏み出す。
「どうした、嫌なことでもあったか?」
頭の中で、悪魔の自分が囁く声が聞こえる――放っておけばいいのに、と。残念ながら放ってはおけなかった。
真面目なのだ、この男。
◆ ◆ ◆
「城瀬さん!?」
少年の反応は思っていたより元気そうなものだった。声をかけた方がびっくりするくらいには。
「……あぁ、そうだ。城瀬だよ。すまんな、さっき間黒のやつと話してたのを聞いちまったんだ。留学するんだって?」
「え、えぇ。そうです、両親に無理言って留学させてもらうことになったんです。本気でピアニストになるために。けれど言ったは良かったんですけど、やっぱり不安になってきちゃって……」
「それで間黒に、アドバイスをも貰おうとしたわけか」
少年は頷く。最初は城瀬が話しかけてきたことに本気で驚いていたようだったが、間黒に心無いことを言われたのが相当堪えたらしい。その声は次第に元気を失っていった。
「――残念だが、俺の目から見てもお前に才能があるようには見えない」
「……そうですか」
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