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「だが、それは今のお前を見てだ。これから留学するんだろう? だったら帰ってきた時のお前を、俺は見てからじゃなきゃ判断できない。才能なんてそんなもんだ、最初から持ってるやつなんてそうはいない。持ってても、それが開花しなきゃなんの意味もないしな。だから頑張れ、俺はお前がいつか俺の同輩になる日を待ってるからさ」
「――っ。ありがとうございます、城瀬さん!」
「俺だってずっと努力してきたから今があるんだ。まぁ聞く相手を間違えたな。間黒は表向きだけはいいけどいつものアイツはあんな感じだ。あいつは本物の天才だし、お前や俺にアドバイスなんてしても的外れなことしか言わねーよ。まあ間違いって言うなら俺に聞くのも間違いだが……」
「いえ、そんなことないです」
少年は首を横に振る。
「僕、城瀬さんのこと誤解してました。普段テレビで見たりする城瀬さんって冷たい感じの人だったんですけど、なんだか印象変わりました!」
「そりゃどうも、留学頑張れよ」
健闘の言葉を受け取り、少年は去っていった。
「ったく、柄にもないこと言うんじゃねーよなぁ……」
「アタシも印象変わりました!」
「は?」
振り返るとそこには奏が立っていた。その表情はどこか悪戯が見つかった子供のような顔をしている。どうでもいいがなまじ美人なだけに、どんな表情も様になる。
「深淵を覗くとき、深淵もまたこちらを覗いているのだ……ってか。あぁ、あぁ悪かったよ。盗み聞きしてたのは謝る」
「そんなつもりで見てたんじゃないよ!」
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