待機所でモフられて

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 兄さん達とこの部屋で暮らし始めてから、色々と気が付いた事がある。  僕がいるこの部屋は『待機所』と呼ばれている事――この待機所にいるフライトスーツを着た兄さん達は戦闘機のパイロットをしている軍隊の兵士だという事――待機所の棚に飾られている刺々しく恐ろしい生き物の模型のモチーフは怪獣の幾つかである事――そして、兄さん達は常に生と死の狭間にいるのを意識しているという事だった。  僕を見る兄さん達の目はいつも軟らかそうだが、僕から離れた場所で出撃を待っている時になると時折緊張で表情が強張っているように見えた。その表情の変化は、野良猫だった頃に立ち寄った警察署や消防署の兄さん達とまるで同じだった。  理由はわかっている、彼らが戦う相手は怪獣だからである。警察官が街中で暴れ回る犯人に立ち向かい、消防士が火事現場の迫り来る炎の嵐に突っ込むように、ここにいるパイロットの兄さん達もいつ何処で現れるかわからない怪獣に立ち向かう。常にその緊張感を持ってこの待機所で過ごしていた。  だから、僕と遊ぶ時はいつも全力で僕を可愛がってくれるのだ。死にかけていた僕が滑走路のおじさんに拾われ、その仲間であるこの待機所の兄さん達に預けられて育てられたのも、張り詰めた緊張感しか流れない待機所の中に癒しを求めた本能なのかもしれない。  僕が来てから自分の生活スペースやその周りにあるテーブルには僕と遊ぶためのおもちゃが多く置かれ、僕のもとに来る度にそのおもちゃで遊ぶのだ。僕はもうそんな年頃ではないが、この待機所で兄さん達の僕を見る笑顔をずっと見ていたら、まんざらでもなくなった。  いつしか、兄さん達の笑顔を見るのが、僕の毎日の楽しみとなっていた。
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