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結「レシート見せてください」
「……いい曲でしたね」
「俺は洋楽の方が好きやけどね」
「情緒がないですよね、大山さん……デリカシーもないし、霊感以外に何があるんですか」
「それ、豪田さんが言います?」
いつの間にか手に軟膏の容器を持っていた大山氏が、苦い顔をしながら私の目の前にそれを置いた。
「額、アザなりますよ」
「……ありがとうございます。富ケ岡は行ってしまいましたけど、大山さんはどうされるんですか? また引っ越し?」
軟膏を塗りたくりながら尋ねれば、大山氏はいいや、と首を横に振って大きく伸びをした。
「しばらくは住みますよ。カネがないのは本当やし、ここなら東京事務所も行きやすいし」
「え、この近くにお笑いの事務所ありました?」
「自転車で一時間です」
遠さに言葉を失った。逞しい人である。
「豪田さんはどうされるんです。俺には依存せんといてくださいよ」
「安心して下さい、富ケ岡の代わりは大山さんにも誰にも務まりませんから」
「そりゃよかった!」
本当に安堵した顔をされてちょっと傷ついたけれど、大山氏にどう思われようとどうでもいい。
「一回、田舎の両親のところに帰って……今まであったこと、打ち明けて相談しようと思います。地元の仲良かった子ともまた会いたいし」
大事な人には、自分から会いに行こうと思う。手近なところで済ませるんじゃなく。
……でも、それだけじゃなかったよ。確かにこんな形でなかったら、仲良くなんかならなかったタイプだけれど、本当に、打算とか妥協じゃなく普通に、富ケ岡と話せて楽しかった。だから絶対忘れはしない。
「じゃあ、荷物まとめるのと、辞表書かないとなので帰ります。最後に大山さん」
「なんでしょ」
大山氏は私の顔を見てへらりと表情を崩した。なんでだろう、額がもうアザになっているのだろうか……。
「このCDたち、購入価格で買い取りますからレシート見せてください」
「レシート!? 捨てたかもしれん……」
「ふんだくられるのはイヤですからね、ちゃんと購入価格の証明を」
りっちーのソロ曲が収録されたCD二枚を両手に、私はほっほっほと声をあげて笑った。
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