転「恋でも愛でも友情でもかまへんわ」

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 咳払いをひとつして、私はぼそぼそと自分の非を認め始めた。声に出すことが必要だと思った。 「……大山さんがさっき言った通りです。私は富ケ岡を、都合のいい捌け口にしてた。富ケ岡も趣味の話ができるなら利害は一致してるって思って……」 「せや。話し相手が欲しいんならな、街コンでも、女用の風俗でも、SNSでもつながるツールはいくらでもあるんや。金と時間を惜しんで富ケ岡さんをこの世に留めておくんは、ゆくゆくはあんたにも富ケ岡さんにも不利益しかもたらさへん」 「お金を惜しんでることは大山さんには言われたくありません。割箸はカビるからあまり再利用しない方がいいですよ」  大山氏を黙らせると、私は富ケ岡を見た。ひょろい男は穏やかに微笑んでいる。 「……ごめんなさい。私が成仏しないでほしいって思ってたせいで、成仏したがってた富ケ岡の邪魔をしてしまった」  勢いよく頭を下げたら、こたつの天板に思い切り額を打ち付けた。本日二度目である。後で見た時紫のアザになっていたら辛い。 「いいんですぞ、豪田さんと話すの、楽しかったですからな。それにいい発見もありました」 「何?」 「豪田さんは霊の成仏さえ阻止するほど強い思念を持っているとわかったことですよ……強い想いはアイドルを支えます……ぜひ、拙者のことは忘れてりっちーを推していって下さい!」 「結局それかい!」 「安心してください、豪田さんのりっちー愛が行き過ぎて馬鹿なことをしそうになったら、拙者が黄泉がえりを果たしてでも止めますぞ! それが拙者が考える、最高の友人像ですからな」  富ケ岡はほっほっほと声を出して笑った。私は本当にオタクは同じ話しかしないんだから、と笑いながら泣いた。すっかり空気になっていた大山氏にふと視線を移すと、なぜか彼も泣いていた。なんでだ。  その後、富ケ岡たっての希望で新曲、お気に入り曲の順でりっちーのソロを流した。新曲をしんみりと耳に焼き付けるように聴き、お気に入り曲を見事に踊り切って、富ケ岡は成仏していった。私と大山氏は振り付けがわからなかったのでとりあえず手拍子で乗り、曲の進行に伴って窓から差し込む橙色の太陽光に溶けて消えていく富ケ岡に、拍手を送った。
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