一般人、一ノ瀬

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 彼女はいつも5時ごろに朝食の支度を始めるので、下手をするとこの時間には既に起きてることがあるのだが・・・どうやら今日はそうでないらしい。  彼はホッとした。殺人帰りでいきなり何も知らない妹に出迎えられるというのは、堪らなく心臓に悪いのだ。『大事な人を騙している』という実感がわいてきて、ひどく胸が締め付けられるのである。  安心して気が抜けたのか、彼はやや重い足取りで洗面所へ行くと、汗を吸ったウェアを洗濯機に放り込んで、仕事終わりの熱いシャワーを浴び、その後すぐに自室へと向かった。  夜中に起きていた分、これから1時間ほどの睡眠をとるのだ。  ―――『1時間の睡眠』と聞くと、日常的な睡眠としてはあまりに短すぎるように思うかもしれないが、実はそうでもない。  これは決して、『寝ないよりは寝るほうがまし』というような貧乏精神論ではなく、組織の用意する”秘密兵器”のおかげで、本当に1時間でも十分な睡眠がとれるのである。  彼は部屋に入るなりすぐにベッドへと倒れ込み、電気スタンドが置かれた寝台脇の小机の引き出しを開け、中から薄緑色の錠剤10個が包装されたシートを取り出す。  これこそ、組織の用意した秘密兵器。新型の特殊睡眠薬『ソニルシン』だ。     
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