彼の名前を呼んではいけない

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 教室には彼がいた。  机に軽くよりかかって、隣の席の男子と話している。  彼はどこにいても、すぐにわかる。背が頭ひとつ抜けているのだ。  しかし―――  彼がよりかかっている机。  あれは私の席だ。  何も言わずに席に着くのは感じが悪いだろうか。  私は机の前で固まってしまった。  名前が呼べない。  私は彼の名前を知っている。けれど、呼べないのだ。  普通に呼べばいい。  ××くん、そこ私の席。いい?  キーホルダーが落ちたの、教えてくれてありがとう。××くん、ミックのこと知ってるの?  こんな具合に。  けれど、名前を呼ぼうとすると、言葉が出ない。  そうこうしているうちに、彼の友達が私に気づいて彼をつついた。 「おい。木崎さん困ってるぞ」 「あ、ごめん」  そういって彼は私の席からどいた。  私は首だけ動かす会釈をして、自分の席についた。  そして、鞄の上に突っ伏した。  杏子のアホ!バカ!  あんなこと言うから、私ってば名前呼べなくなっちゃってるじゃん!
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