彼の名前を呼んではいけない

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 ラジオのジングルがなって、静かな声が流れ出す。 「今夜もひとりぼっちのあなたに送るひとりごとラジオ。日本のどこかであなたと同じようにラジオに耳を傾けているだれかがいます」  いつもこのラジオ番組、『深夜のひとりごとラジオ』は、このセリフで始まる。  窓を開けて、ラジオのアンテナを立てると、窓辺に頬杖をついて、ラジオから流れるDJミックの声を聴いた。 「今日のテーマは、出会い」  私が今朝落としたキーホルダーは、このラジオに投稿して採用された人だけがもらえる、DJミックのキャラクターだ。  毎週水曜日に流れるこのラジオに、投稿メールを送るのは完全に習慣となっていた。  寒い冬でも窓を開け、夜空を見ながらアンテナを立てるのも、どこかの誰かと交信をしているような気持ちを味わうためだった。  このラジオ番組は、タイトルの通り、投稿者の「ひとりごと」をDJミックがひたすら読み上げるだけのラジオだ。  実際に、私もひとりごとをつぶやくつもりで、投稿メールを送っていた。  書きっぱなしの駅の掲示板。そんな感じだ。  SNSのように、誰かが反応したり、返事をしたりすることはない。  それがまた、心地よくもあった。
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