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校庭へと出て行く巧は一人じゃなかった。可愛い女の子が、これまた可愛い傘を差して巧の隣に寄り添っていた。
ちょっと赤い顔をした巧が、左肩を少し濡らしながら女の子の隣を歩いていく。
「……なーんだ。私が入れなくても、入れてくれる子いるんじゃん」
少し強くなり始めた雨の中、歩く二人の背中を動けないまま私は見つめ続けていた。
「……新菜?」
どれぐらいの時間が経ったんだろう。ボーっとしていた私の名前を誰かが呼んだ。
振り返るとそこには、遠矢君の姿があった。
「何やってんだ?」
「遠矢君こそ」
「俺は、進路指導で残されてたんだよ。新菜は?」
「私は……別に。今、帰るところだよ」
「ふーん?」
遠矢君は珍しくニッコリと笑うと、私の手元を指差した。
「傘、さ入れてくれない?」
「え……? 遠矢君、傘は?」
「それが持ってきたはずなのになくてさ。誰かに間違えて持って帰られちまったのかな」
「そっか。いいよ」
私は傘を広げると「どうぞ」と遠矢君を招き入れる。そんな私の手から遠矢君は傘を取り上げた。
「これは、俺の役目」
「で、でも……」
「ばーか。新菜が持ったら俺が入れないだろ」
……たしかに。私より15センチ以上大きい遠矢君が入ろうと思ったら、きっと腰が痛くなるぐらいかがまなきゃいけない。これが――。
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