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なんとなく、声のトーンが上がってしまっているのはきっと気のせい。そう思い込みながら巧に話しかけると、巧の視線が挙動不審に左右に動く。そして、観念したように私を見た。
「昨日の帰り、俺の教室まで来てくれたって聞いたから……」
「あ、うん。ちょうど入れ違いになっちゃったみたいでゴメンね」
「ううん。わざわざ、ありがと」
「……それを言うためにここに? メッセージアプリでよかったのに」
「それは……」
ごにょごにょと口の中で巧は何かを呟くけれど、よく聞き取れない。「どうしたの?」と少し屈んだ私の耳元で、巧は小さな声で言った。
「今日の夜、ご飯食べに行ってもいい?」
「っ……い、いよ」
「やった!」
耳にかかる息がなんだかくすぐったくって、慌てて身体を起こしながら言った私に、巧は嬉しそうに微笑んだ。
その笑顔が可愛くて、つい頭を撫でそうになって、やめた。学校でそういうことをすると巧が怒るのはさすがに学習済みだ。
不思議そうに私を見る巧みに、誤魔化すように笑うと「それじゃあまた夜にね」と言って教室へと戻る。
途中すれ違った友人に「顔がにやけてるよ」なんて言われたけれど、しょうがないじゃない。あんな可愛い態度取られたら誰だってそうなるに決まっている。
誰だって……。
「……胃が重い」
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