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「さっき購買の前を通りかかったらいつもの十倍ぐらい並んでたよ。なんかレジが壊れたんだって。あれは修理に時間がかかるんじゃないかなぁ」
「それじゃあ……」
「それまで俺とここで二人きりってこと」
「っ……」
立ち上がろうとした私の手を、橘先輩は掴む。振り払おうとしても、その手を振りほどくことができない。
「離してくださ……」
「いいじゃん、美樹ちゃん帰ってくるまで一緒にお喋りしていようよ」
「なんで……」
「それとも……俺と話しするの、嫌?」
しゅんとした顔をされてしまうと、返答に困る。
嫌なわけじゃない。むしろ、嫌なわけじゃないから困っている。
だって……私は知っているもの。
「ほら、座って」
「っ……」
「よくできました」
促されるようにして隣に座る私に、橘先輩はニッコリと笑って頭を撫でてくれた。
その手が、あまりにも優しくて泣きたくなる。
こんなふうに思わせぶりな態度を取らないでほしい。
あんなに可愛い、彼女がいるくせに……。
知ったのは、本当に偶然だった。
近道のために通り抜けようとした裏庭で、橘先輩が知らない女の人と話をしていた。
橘先輩といえば、部内でも人気者で、私と同じ一年や先輩たちの中でも憧れている人がいるという噂だった。
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