好きな人の好きな人

4/16
前へ
/16ページ
次へ
 知っている人の告白シーンを見てしまうなんて。  そしてそれがまさか、橘先輩だなんて……。 「どうして……」  たいして走ったわけじゃないのに、胸が苦しくて動けなくなった私は、誰もいない校舎裏でしゃがみこんだ。  はぁ……はぁ……と肩で息をするたびにポタポタと汗が地面にシミを作っていく。 「橘先輩、モテるんだ……」  チラッと見た女の先輩はとても可愛い人だった。  それに……あんな嬉しそうな橘先輩の顔、見たことない。  ただの部活の先輩だけど、この二か月、明るくて、優しくて、一年生みんなのあこがれの存在だった橘先輩。 「みんなに……言ったら、悲鳴があがりそう……」  想像するだけで悲鳴が聞こえてくるようだ。  雪美ちゃんなんて今度告白する! って、張り切ってたし泣いちゃうんじゃないかな……。 「それにしても……ビックリしたなぁ……」  相変わらずポタポタと流れ落ちる汗を見つめながら、この汗が引いたら教室に戻ろうかな、なんて思った時、私は気付いた。 「汗じゃ、ない……」  頬を伝うのは汗ではなくて、これは……。 「私、泣いてるの……?」  目元を拭うと、指先に溢れ出ようとしていた雫がつく。  でも、どうして……?  泣く理由が分からない。     
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加