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ああ、陸上部の彼は私を追ってきたのではない、彼を見ていた私を追ってきたのだ。
きっと真面目な彼は、客観的に自分のフォームとかを確認したかったのだ。
それよりも、私がずっと見ていた事を彼が認識していた事に驚いた。
「えっと……すごく綺麗なフォームでした」
素直な感想を伝えた。専門的な知識はないので、細かい指摘は何も出来ない。
「いや、それは……いいんだ。あの、よかったら一緒に帰らない?」
「え?」
「その、俺、なんか君の事……気になっちゃって」
これは……どういう事だろうか。私は頭が真っ白になって頷く事しか出来なかった。
彼と肩を並べて歩く帰り道は、いつもと違う景色に見えた。
隣の彼の存在を全身で意識してしまっているせいか、風景はぼやけ、音も遠ざかり、足も宙に浮いているようだ。
それでも私は彼に聞きたい――確かめたい事があった。
私はなんとか言葉を紡ぎ、彼に問う。
「どうして私の事……気になったのですか?」
彼は私の知りたかった答えを、その口でしっかりと言葉にしてくれた。
「なんかさ、魔法に掛かった気分なんだよ」
女の子は恋をすると、魔法が使えるのだ。
私は追加の魔法とばかりに――とっておきの笑顔を、彼に向けた。
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