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放課後の魔法使い
ずっと見ていた。
一年先輩の陸上部の彼は、放課後の校庭のトラックを走っていた。
私は校庭に繋がる階段の隅に座って、ずっとそれを眺めている。
「睦美帰らないの?」
遥が私の隣に来て、聞いてくる。
「まだ。もうちょっとしたら帰る」
遥はトラックを走る彼を一度見た後、納得顔で私に言う。
「ああ、睦美の好きな彼ね。そんなに好きなら告白っちゃえばいいのに」
「……」
「じゃあ私は帰るからね、またね睦美」
「うん、またね。遥」
そんなに簡単に告白出来るものなら、とっくにしている。
私は自分からそんな事が出来る程、勇気も度胸もない。
だからこうして、遠くから眺める事しか出来ないのだ。
彼は私に気付く事なく、懸命に走っている。
夏真っ盛りの今日、夕方前の今の時間でも気温は三十度はあるだろう。彼は汗だくだ。
私は彼に向かって想いを籠める。
(こっち見て)
走り終わって両手を膝について、息を切らせていた彼がこっちを向いた。
私と一瞬目が合ったその後、すぐに踵を返してまた走り出す。
「すごいタイミング……」
私は今、魔法を使った。きっとそう。
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