親友を訪ねる

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親友の家が見えてきた。高鳴る胸に足が早まる。 出発してから急に思い付いて手土産にと思って狙った獲物のレイヨーに負わせた傷が意外と浅く、3日の追跡が必要だった。 この数年の異常気象のせいか、乾期だと言うのに唐突に降った大雨で枯れ谷に濁流が渦巻き、担いだ獲物が数キロ下流まで流された。 丸1日川を下りようやく見つけた獲物にハイエナが群がっていた。 6頭のハイエナとの数時間にわたる死闘で足に酷い噛み傷を負った。 まばらに草木が生える近くの山に登り薬草を捜し、傷口に塗ったところで傷から入った雑菌のせいで高熱が出た。 襲撃を避けるため棘が密集する茨の中に這い込んでから2日間うなされ続けた。 穂先の欠けた槍を杖に、左足をごっそり食われた獲物を担ぎ、熱で弱った体に鞭を打って歩き出す。 「ムバンギに子供が生れた」 遊牧中のダマン族の顔見知りに聞かされ、いてもたってもいられなくなり、20キロ離れた隣人で親友のムバンギを訪ねることにした。 突然の訪問に、ムバンギはどんな顔をするだろう。 いつも腰に下げている成人の儀式で共に倒したライオンのたてがみを編んだお守りを無意識のうちに触る。 「あいつが父親になったんだな」 それを思うと萎えかけた足に力が戻る。 「お前の最初の子供には俺が名前をつけるからな」 そんな他愛の無い約束をやつは覚えているだろうか。 牛の糞を固めて建てた小屋に作りつけられたドアをノックし、返事を待つ。 サバンナの遥か彼方、水平線に夕日が溶け込もうとしている。 返答が無い。 留守だった。
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