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8:春を思う
この年の春、エルカナとアマリヤは晴れて修道士になる事が出来た。それはマルコにとっても、タリエシンにとっても喜ばしいことだった。けれども、マルコの心の中には、ひとつだけ不安があった。
畑の仕事と授業の間の休憩時間に、マルコはタリエシンに学堂でこんな話をした。
「最近、不安なんです」
「ん? なにかありました?」
不思議そうに訊ね返すタリエシンに、マルコは指を組んだ両手をぎゅうと握りしめ、弱々しい声で言う。
「エルカナさんが、修道士になったじゃないですか」
「ん? そうですね。アマリヤさんもですけど」
事実確認をするようなタリエシンの言葉に、マルコの瞳が潤む。
「修道士になってしまったから、今までのように、エルカナさんを頼りには出来ないのかと思って、それで」
今にも泣き出してしまいそうなマルコに、タリエシンは優しく背中を叩いてこう言う。
「いつまでも甘えてばかりというのは確かに出来ないと思うけど、頼りにする分には良いんじゃないですか」
「そうでしょうか……」
「そうそう。アマリヤさんだって相変わらずだし」
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