8:春を思う

1/3
前へ
/30ページ
次へ

8:春を思う

 この年の春、エルカナとアマリヤは晴れて修道士になる事が出来た。それはマルコにとっても、タリエシンにとっても喜ばしいことだった。けれども、マルコの心の中には、ひとつだけ不安があった。  畑の仕事と授業の間の休憩時間に、マルコはタリエシンに学堂でこんな話をした。 「最近、不安なんです」 「ん? なにかありました?」  不思議そうに訊ね返すタリエシンに、マルコは指を組んだ両手をぎゅうと握りしめ、弱々しい声で言う。 「エルカナさんが、修道士になったじゃないですか」 「ん? そうですね。アマリヤさんもですけど」  事実確認をするようなタリエシンの言葉に、マルコの瞳が潤む。 「修道士になってしまったから、今までのように、エルカナさんを頼りには出来ないのかと思って、それで」  今にも泣き出してしまいそうなマルコに、タリエシンは優しく背中を叩いてこう言う。 「いつまでも甘えてばかりというのは確かに出来ないと思うけど、頼りにする分には良いんじゃないですか」 「そうでしょうか……」 「そうそう。アマリヤさんだって相変わらずだし」     
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加