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風呂に入って、歯も磨いて、それからベッドの縁に腰掛けて、アオバとキスをした。
ゆったりと唇や舌を吸われ、時々優しく歯を立てられて、身も心も溶けてしまいそうだった。
キスがこんなに気持ちいいものだなんて、初めて知った。アオバがそれを教えてくれた。
離れていく唇が、名残惜しい。
頬を挟んでくる手のひらも、その視線も熱い。
「てっちゃん」
「……うん」
「好きだよ」
「……」
「愛してる」
俺は目を伏せて、黙って頷いた。
アオバはいつも、息を吐くように「好きだ」とか「愛してる」と言う。俺はそう言われる度に、どんな風に返事をしたらいいのか分からなくて、言葉に詰まってしまう。
もちろん、そう言われて嫌なわけじゃない。
俺だって、アオバが好きだ。
友情のような、愛情のような『好き』を心に抱いている。
だけどそういう感情を言葉に表すのは、俺にとっては難しいことなんだ。
だって、『愛』ってフクザツなものじゃないか。言葉の重みが舌にのしかかって、俺は何も言えなくなってしまうんだ。
そもそもそれ以前に、照れの方が勝ってしまって、甘いセリフを並べ立てるのはどうもはばかられる。そういう感覚って、特別変なものでもないだろう?
だけどアオバと関わっていると、もしかすると俺が未熟者なだけで、今時の日本男児は、ド直球な愛情表現をするのがスタンダードだったりするんだろうか……なんて思えてきたりもする。
となると、俺の口下手具合に、アオバもいい加減呆れてるかもしれない。
ちらりとその表情を窺った。
アオバはただただ穏やかに目を細め、慈愛に満ちた表情で俺を見つめている。
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