*第九話:熱帯夜【side Tetsu】

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 * * *  風呂に入って、歯も磨いて、それからベッドの(ふち)に腰掛けて、アオバとキスをした。  ゆったりと唇や舌を吸われ、時々優しく歯を立てられて、身も心も溶けてしまいそうだった。  キスがこんなに気持ちいいものだなんて、初めて知った。アオバがそれを教えてくれた。  離れていく唇が、名残惜しい。  頬を挟んでくる手のひらも、その視線も熱い。 「てっちゃん」 「……うん」 「好きだよ」 「……」 「愛してる」  俺は目を伏せて、黙って頷いた。  アオバはいつも、息を吐くように「好きだ」とか「愛してる」と言う。俺はそう言われる度に、どんな風に返事をしたらいいのか分からなくて、言葉に詰まってしまう。  もちろん、そう言われて嫌なわけじゃない。  俺だって、アオバが好きだ。  友情のような、愛情のような『好き』を心に抱いている。  だけどそういう感情を言葉に表すのは、俺にとっては難しいことなんだ。  だって、『愛』ってフクザツなものじゃないか。言葉の重みが舌にのしかかって、俺は何も言えなくなってしまうんだ。  そもそもそれ以前に、照れの方が勝ってしまって、甘いセリフを並べ立てるのはどうもはばかられる。そういう感覚って、特別変なものでもないだろう?  だけどアオバと関わっていると、もしかすると俺が未熟者なだけで、今時の日本男児は、ド直球な愛情表現をするのがスタンダードだったりするんだろうか……なんて思えてきたりもする。  となると、俺の口下手具合に、アオバもいい加減呆れてるかもしれない。  ちらりとその表情を窺った。  アオバはただただ穏やかに目を細め、慈愛に満ちた表情で俺を見つめている。
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