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卒なく仕事を終え、迎えた週末の夜。
同僚からの飲みの誘いはさりげなく断った。影で「最近付き合いが悪い」と噂されているかも知れない。
でも、いいんだ。今のオレには、もっと大切にしたい時間があるんだ。
てっちゃんからの連絡はまだ無い。
でもいつもの感じだと、そろそろ来る頃合いだ。
オレはてっちゃんに、今帰宅中だとメッセージを送り、スマホを鞄に仕舞った。
そして駅から自宅への道のりを、軽快な足取りで歩いていた――その時だった。
「田中ぁーッ!」
オレは目をキュッと細めた。
大通り沿いに続く歩道のずっと先の方で、誰かが大声で叫んでいるような気がする。
と、点のような状態だった何かが、あっという間にオレとの距離を縮めて、火花が飛び散らんばかりの激しいブレーキと共に目の前で停止した。
前方から猛ダッシュで自転車を漕いでやってきたのは、花月さんだった。この人、どんな視力と脚力してんだろう。
オレはわざとらしく、身構えるようなポーズを取ってみせた。
「また出たなッ」
「おう、また出たぞ!」
花月さんは肩で息をしながら、額の汗を指で拭って笑った。
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