第十話:友情の種と愛の花【side Aoba】

3/13

483人が本棚に入れています
本棚に追加
/165ページ
「なあ、ちょっと前に田中の彼氏に会ったんだけどさ」 「ああ、てっちゃんから聞きましたよ。ってか、それ先月の話ですよね? もう8月なんですけどー」 「仕方ないだろ。僕だって、毎日毎日おたくのマンションの前で張り込みするほど、ヒマじゃないんだよっ」  眉間にしわを寄せて睨んだかと思ったら、花月さんは表情をコロッと変えて、またニヤニヤと笑う。 「でさでさ。彼氏、可愛い男だな」 「えー、わかります?!」 「わかるわかる」  内緒話をするような仕草で、女子高生みたいに会話に花を咲かせる。 「『田中君の彼氏?』って聞いたら、顔真っ赤にしながら『彼氏です』って言ってたぞ」 「ええっ?! うそっ……何それ……なんで録画しておいてくれなかったんですかー?!」  ――そんなやりとりがあったなんて、聞いてない!  オレは思わず花月さんの肩を掴んで、がくがくと揺さぶった。  半分小芝居だけど、半分本気だ。  花月さんは呆れたように「無茶言うなよ……」とぼやいた。そして不敵な笑みを浮かべてアゴを掻いた。 「いやあ、思わず僕が食っちまおうかと思ったね」 「やめろ、そういう冗談は! うわー、マジかよ……てっちゃん、ちゃんとオレの彼氏だって思っててくれてるんだ……」 「そうさ。結構うまくいってるみたいじゃないか」  ひやかすように、肘で突かれる。  口下手で不器用なてっちゃんが、見えない所でそんな風に言ってくれていたなんて、感激だった。  熱くなってくる頬を両手で包んだ。頭の中に花畑が広がる。目をうるうるさせて、オレは完全に恋する乙女モードになっていた。
/165ページ

最初のコメントを投稿しよう!

483人が本棚に入れています
本棚に追加