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「なあ、ちょっと前に田中の彼氏に会ったんだけどさ」
「ああ、てっちゃんから聞きましたよ。ってか、それ先月の話ですよね? もう8月なんですけどー」
「仕方ないだろ。僕だって、毎日毎日おたくのマンションの前で張り込みするほど、ヒマじゃないんだよっ」
眉間にしわを寄せて睨んだかと思ったら、花月さんは表情をコロッと変えて、またニヤニヤと笑う。
「でさでさ。彼氏、可愛い男だな」
「えー、わかります?!」
「わかるわかる」
内緒話をするような仕草で、女子高生みたいに会話に花を咲かせる。
「『田中君の彼氏?』って聞いたら、顔真っ赤にしながら『彼氏です』って言ってたぞ」
「ええっ?! うそっ……何それ……なんで録画しておいてくれなかったんですかー?!」
――そんなやりとりがあったなんて、聞いてない!
オレは思わず花月さんの肩を掴んで、がくがくと揺さぶった。
半分小芝居だけど、半分本気だ。
花月さんは呆れたように「無茶言うなよ……」とぼやいた。そして不敵な笑みを浮かべてアゴを掻いた。
「いやあ、思わず僕が食っちまおうかと思ったね」
「やめろ、そういう冗談は! うわー、マジかよ……てっちゃん、ちゃんとオレの彼氏だって思っててくれてるんだ……」
「そうさ。結構うまくいってるみたいじゃないか」
ひやかすように、肘で突かれる。
口下手で不器用なてっちゃんが、見えない所でそんな風に言ってくれていたなんて、感激だった。
熱くなってくる頬を両手で包んだ。頭の中に花畑が広がる。目をうるうるさせて、オレは完全に恋する乙女モードになっていた。
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