第十話:友情の種と愛の花【side Aoba】

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 暑い中、ずっと立ち話しているのもなんだからと、近くの自動販売機で飲み物を買った。  オレは最高に機嫌が良かったので、花月さんに「おごりますよ」と言った。だけど花月さんは「勤務中だから」と、その提案を断った。なんだかんだで、やっぱり真面目な人なんだ。  花月さんと肩を並べて、人通りの少ない歩道沿いのガードパイプにもたれ掛かり、オレは冷たいサイダーの缶を開けた。  シュワシュワと炭酸が弾ける音がする。  花月さんは一瞬、羨ましそうにサイダーの缶を見つめた。だけどすぐに、自制するように腕を組んで、その表情をキリッと引き締める。 「僕も昔ね、片思いしてた男がいたんだ。元々親友っていうか、すごく仲の良い間柄でさ」 「へえ」  花月さんが自分の事を語り始めるなんて、珍しい。というか、初めてのことかも知れない。  興味津々で、話の続きに耳を傾けた。 「もっともっと近付いて、恋を実らせたくて、僕も彼を誘って、二人で長期旅行に行ったことがあったよ」 「本当? それで、彼とはどうなったんですか?」  花月さんは自嘲するようにふっと笑った。 「駄目だった」  その笑顔はちょっと寂しげだった。  なんだかこっちまで寂しい気持ちになるようで、オレはシュンと肩を落とした。 「告って、フラレたってこと?」 「いや。もっとそれ以前の問題でね」  背後の車道をトラックが埃を立てながら、走り去っていく。  花月さんは、遠い昔を懐かしむような目をして言った。 「一週間近くも側にいて生活を共にしたら、だんだんと小さなことでも意見がぶつかるようになって、ギスギスするようになっちゃったんだ。不思議なもんでさ。元は何するにも一緒ってくらい、仲が良かったのに。それで、まだ始まってもいないうちに、勝手に自滅よ」 「……ギスギス、ですか」 「うん。ドツボに入ると、あくびやくしゃみの仕方一つ取っても、無性に気に入らなくなるんだよな。人間、距離が近くなり過ぎても駄目なんだなってのが、その時の教訓」
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