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「……」
「今になってみれば、僕はコドモだったなあって思うけどね。コドモなりに、人を好きになったつもりでいたんだけど」
花月さんは苦笑いしながら、続ける。
「なんだかんだで男同士の関係も、気楽なようで難しいとこあるよな」
「うーん……」
「雄としての闘争本能とか、関係あるのかな? 意地の張り合いとかしちゃうじゃん? プライドぶつけ合ったり、マウント取ってみたり、ムスコの背比べみたいな事をさーァ」
「なんスかムスコの背比べって」
オレはちょっと笑って、花月さんの方を見た。
花月さんの言うことも、わからなくもない。だけど――
「闘争本能ってか、結局相性の問題じゃないですか? そういうの。ずっと一緒にいて、ギスギスするかしないかは人それぞれですよ」
「それぞれね。まあ結局、そうなんだろうけどさ――」
もしかすると花月さん、結構本気で過去の経験がトラウマになっているのかもしれない。真剣に悩むような顔で、俯いてしまう。
「僕はダメ人間なんだろうか」
「なんでですか?」
「元々誰かと一緒にいるのに、向いてない人間だったのかなって」
「いやいや、そういう人って、うまいことマッチする相手がいたら絶対に離れないってタイプですよ」
「……」
花月さんは口を尖らせて、ぼんやりと空中を見ている。
「田中みたいな人が僕は羨ましいよ。真っ直ぐに恋ができる人ってさ」
「お巡りさんは、ちゃんと付き合えるような相手、今は探してないんですか? 現職警官なんて、めちゃめちゃモテるでしょ」
「どうせ駄目になるって思ったら、恋愛は面倒くさいだけだよ」
「面倒くさいっていうか、軽く恋愛恐怖症になっちゃってんじゃないスか? それ」
「……そうかも」
花月さんは笑って、照れ隠しをするみたいに、手のひらで頬を擦った。そして、
「でも身近に仲の良いカップルがいると、刺激はされるよね。本当は最近、ちょっとだけ、僕もそろそろ恋したいなーとか思ったりするんだ」
と言った。その表情は、なんだか『素の花月さん』って感じだった。花月さんのことをあまりよく知らないのに、そう思った。
そして『素の花月さん』は、酸いも甘いも知った、人間味のある、魅力的な大人の男に見えた。
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