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オレはサイダーに口をつけた。口の中にフルーティな香りが弾けて広がる。
散々褒めて貰ったはいいけれど、オレとてっちゃんの関係は、まだ始まったばかりなんだ。
この先、オレ達だって価値観の違いでぶつかり合ったり、ギスギスするような場面に直面することもあるのかもしれない。
二人で色んな問題を乗り越えていけるように、もっと絆を深めていかなくちゃならない。
未来がどうなるかだって、わからない。
これからなんだ。
それに花月さんには言えないけど、体の関係だって、触りっこ止まりだし。まだまだもいいとこだ。
オレはてっちゃんと触れ合えるだけでも幸せだから、そういうバニラセックスだけでも全然、不満ってことはないんだけど。
それでもやっぱり、一度くらいはてっちゃんと一つに結ばれてみたいという願望はある。
愛も絆ももっと深めたい。その為には、やっぱり深い信頼関係を築くのが大前提で――
その時、スマホの着信音が、オレの思考を断ち切った。
慌てて鞄に手を突っ込む。
〈こっちも仕事終わった。今日はどうする?〉
てっちゃんだ。思わず頬が緩んでしまう。
花月さんがオレのスマホの画面をひょいと覗き込んでくる。
「彼氏? 邪魔して悪かったな」
それから立ち上がって、自転車のスタンドを払った。
「いや、お巡りさんの話聞けて、よかったです。親近感がぐっと増したっていうか」
「……早く行ってやれよ。彼氏ンところ」
花月さんは照れたように笑って、手を振って自転車を漕ぎ始めた。
誰かと真剣に恋の話をするなんて、なんだか、久しぶりのような気がする。
友達――って言って良いのかどうかはわからないけど、こんな風に、飾らずに話ができる相手って、貴重な存在だよなあ。
大人になってからは特に、そう思う。
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