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「い、家のことでも片付けようか!」
「え?」
「ほら、洗濯もの干したり、掃除したり、てっちゃんもやることいっぱいあるでしょ。オレ、手伝うよ」
「……うん」
オレの反応が意外だったのか、てっちゃんは、きょとんとした目でオレを見ていた。
その手を引っ張って立ち上がり、「何から片付ける?」と聞くと、てっちゃんは少し考えてから、
「じゃあ……まず洗濯。天気がいいから、スニーカーも洗いたい。あと換気扇と、エアコンのフィルター綺麗にして、窓拭いて、網戸の埃も掃除する」
と、指折り頭の中の『やることリスト』を読み上げた。
てっちゃんって人は、なんて綺麗好きで几帳面なんだろう。オレなんか年末大掃除の時期でもなければ、『網戸を掃除しよう』なんて発想はまず湧かないぞ。
手を握ったまま、二人で部屋を出て、脱衣所に行く。
てっちゃんは、オレの様子をチラチラと窺いながら、洗濯かごの中身を洗濯機に放り込み、洗剤を入れてスタートボタンを押した。
音を立てて、洗濯機が揺れだす。しばらくその様子を真顔で見下ろしてから、てっちゃんはオレを振り返って苦笑いした。
「……なんか、時間余ってるからって、昼間っからまたエロい事おっ始めるのかと思ったよ」
「えー、なんで?」
「お前がスケベだから」
アハハ、と笑いつつ、オレはちょっと冷や汗をかいていた。
「最近、週末はずっと一緒にいてくっついてるから、てっちゃんの時間を邪魔しちゃってるんじゃないかなって思ってたんだ」
「そんなこと、気にしてくれてたんだ」
「うん。オレだってさ、二人の関係のこと、真面目に日々一生懸命考えてんだよ?」
軽い調子でそう言ったら、てっちゃんはなんだかすごく優しい目をして微笑んだ。
その表情に見とれていると、てっちゃんはそっとオレに寄り添い、珍しく、自分から唇にキスをしてくれた。そして背中に手を回して、ぎゅーっと抱きついてくる。
「……てっちゃん?」
「……」
てっちゃんは何も答えない。ただただ黙って、オレの肩にもたれ掛かっている。
そうやって、ごうごうと唸る洗濯機の前で、しばらく無言のまま抱き合っていた。
てっちゃんは時々、こんな風に急に黙り込んでしまう時がある。最近はその沈黙も、心地良いと思い始めてる自分がいる。
暖かい。てっちゃん、今、何考えてるんだろう。
幸せだって思っててくれたらいい。――オレと同じように。
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