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昼間の太陽光を吸い込んだアスファルトが、熱気を放っている。その上を、バイクで駆け抜ける。
全身に浴びる夜風は生ぬるい。だけどオレはこの湿気を帯びた夏の夜風が、案外好きだ。
高層マンションに浮かぶ窓の明かりは、無機質な四角い蛍の群れ。
東京湾に沿って展開する湾岸エリアは、埋立地だ。工場やビルやマンションが立ち並ぶいかにも都会的な美しい風景は、海に向かって成長を続けている。
開発途中の土地がちらほら見える。
寂しい荒野や、ビルの頂上に置かれた重機も、夜は眠っている。開拓中の異星にやってきたみたいだ。
豊洲を抜けて、お台場方面へ。
新宿や渋谷のような眠らない街と比べ、観光地だというのに、夜は割と人気が少ない。
道路が広くて走りやすく、眺めも良いせいか、ドライブやツーリングを楽しむ他のグループとも、時々擦れ違う。
「アオバ、一旦降りようか」
「うん」
インカムで指示し合って、オレ達は駐輪場にバイクを止めた。
てっちゃんが隣でヘルメットを脱いで、ぺちゃんこに潰れた髪の毛を手ぐしでかきあげている。
「何?」
じっと見つめていたら、オレの視線に気づいて、てっちゃんは不思議そうな顔をした。
オレは、てっちゃんのヘルメットを脱ぐ仕草が、結構好きかもしれない。なんというか、すごくセクシーだ。
「……なんでもない」
思わず頬を熱くして、俯く。
てっちゃんは何か言いたそうにしていたけれど、オレはそそくさとバイクを後にし、静かな海浜公園へと向かった。
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