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人工の砂浜を歩きながら、海を眺める。
水面に夜景が揺れている。波間を、屋形船が走り抜ける。どこもかしこもキラキラと輝いている。
「ここから見える窓の明かりの一つ一つに、誰かの生活が存在してるなんて、不思議だね」
「うん。こう見ると、東京は人間の数が多すぎるな。土地も狭すぎるから、ちょっと減らした方がいい」
「オレ達もその中の一人なのに……」
てっちゃんの言い草に、笑ってしまった。
心地の良い、波の音。
足を止めて、二人で並んだ。
「アオバってさ、時々俺のこと、じっと見てるよね」
「……そう?」
「さっきだって――」
言いかけて、てっちゃんは口の中で「うわっ」と小さく叫んだ。
なんだろう? ――その視線を追う。
オレの右隣に立つてっちゃんの、そのさらに向こう側で、一組のカップルが身を寄せ合っている。
男は女の子をぎゅっと抱きしめ、女の子の方も男にすがりついて、波打ち際で凄まじくディープなキスを交わしていた。
近くに人がいるのに、構わずキスするなんて、相当盛り上がってる。さては付き合いたてホヤホヤだな?
てっちゃんは慌てたように、砂浜に視線を落とした。
結構お硬いところがあるから、こういうの、苦手なんだろうなあ。
しかしそのキスがあまりに熱烈すぎて、ちょっと微笑ましいくらいの気分だったオレですら、だんだん恥ずかしくなってきた。
花月さんに、てっちゃんとのディープキスを見せつけてしまったことを、なんだか今になって申し訳なく思い始めた。
「……で、何の話してたんだっけ?」
「えーと」
「ああ、そうだ、アオバが俺のこと凝視する件ね」
てっちゃんはポンと拳で手のひらを叩き、オレを指差してくる。
オレは照れ臭さから、その指を掴んで「人を指差しません!」と言って下に向けた。
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