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「あっ……無い」
砂浜に座って、ケーキの箱を開けてようやく気付いた。フォークが入っていない。プラスチックのフォークがあるかどうか聞けばよかった。
そもそもケーキはテーブルでお行儀よく食べるものだから、店員だって俺達がまさかこんなところで箱を開けるとは思ってなかっただろうな。
「しょうがないなー。手掴みで食べよう」
「うわあ」
「だってそれしかないじゃん。いいよ、後で手ェ洗えば」
アオバはショートケーキをつまんで、早くも頬張り始めながら言った。
ヘルメット被った男が二人、砂浜で手掴みでケーキを食う――なんて意味不明な絵面なんだろう。
「てっちゃんの失恋記念に……ふふふ」
「やめろよ」
俺もモンブランを手に取り、頬張った。
――甘い。
確かに甘いものを食べると、なんとなく元気が出てくるような気がする。
栗の柔らかな甘みを味わいながら、俺は景色を見渡した。正月だっていうのに、防波堤の上でぽつんと釣りをしている人の姿が見える。
「見ろよ。元旦から一人で釣りしてやがる」
俺はアオバの腕を肘でつついてほくそ笑んだ。
「フッ……孤独」
「おとといフラレたばっかの人がよく言うよ」
「まあね」
モンブランを食べ終わって、俺は指をぺろりと舐めた。
「でも俺、元々一人の時間が大事だったし。彼女の事は、もういいやって結構吹っ切れてんだ」
「お? じゃオレ、せっかくてっちゃんが一人で正月を楽しんでるとこを邪魔しちゃったかな?」
アオバはからかうように言った。
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