*第十一話:残暑の渓谷【side Tetsu】

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 9月になり、俺とアオバは東京の北西部に位置する奥多摩へと出かけていった。  都心を抜け青梅街道、吉野街道を延々と走り、やがて多摩川に沿って道は続いていく。  時折他県ナンバーの車や、バイクや、ロード乗りを見かける。  この辺り――特に奥多摩町と檜原村を結ぶ奥多摩周遊道路は、景観の良さや走りやすさから、ドライブやツーリングを楽しむ人々が多く集まる場所でもあるんだ。  時々、サーキット並の無茶なスピードでコーナーを攻める走り屋も出没するらしいけど、人々の多くはこの奥多摩に、豊かな自然の景色や、風の心地よさを楽しみに来ている。  俺達も今日は気ままにトコトコ走って、自然の中でのんびりと一日を過ごすつもりだ。 「てっちゃん、このまま奥多摩湖の方まで行く?」  アオバがインカムで話しかけてくる。  どうしたものか。時計を確認する。それと同時に、俺の腹がきゅうっと唸った。 「うーん……その前に、お腹空いた」 「だね。もうちょい手前で、休憩しとこうか」  アオバはそう言うなり、ウィンカーを出して減速した。  アオバに続いて、多摩川沿いの小さな駅前にバイクを止めた。  駅の周辺を見渡してみる。多少の観光客の姿は目に付くけれど、人通りは少なく、のどかな雰囲気だ。  マップケースからツーリングマップを出して、ぱらぱらとページをめくっていると、アオバが観光案内の冊子を手に、駅舎から出てきた。 「てっちゃんてっちゃん、これ貰ってきた」 「どっかいい場所ある?」 「えーっと……ここは? 軽食屋っぽいけど」  そう言って、手書きのイラストでまとめられた、簡素な地図の上を指差す。 「じゃ、そこで」 「オッケー」  俺達は再びバイクにまたがり、店を目指して発進した。
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