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「お待たせいたしました」
先程の若い女の店員さんがやってきて、サンドイッチの乗った皿とアイスティーの入ったグラスを、テーブルに置いた。
「おっ、美味しそう。いただきます」
振り返ったアオバは、店員さんに向かって白い歯を見せてニッコリと微笑んだ。
アオバからスマイルを贈られた店員さんは、頬に落ちる栗色の後れ毛をサッと耳にかけ直しながら、頬を薄っすらと赤くして会釈をした。オイオイオイ……。
「いただきます!」
意地を張りたい気分になって、負けじと俺も、店員さんに向かって微笑んだ。
頬を赤らめていたかどうかは分からないけれど、店員さんはニコリと微笑み返して、それからパントリーに入っていった。
えーと……これってやっぱり、アオバの方に軍配が上がる感じなんだろうか?
なんとなく悔しい。
俺はお冷の入ったグラスをあおった。氷をガリガリと噛みながら、正面に座るアオバを見る。
アオバは店員さんの反応なんか、全然気にしてる風でもない。つまりこいつにとって、ああいう爽やかな立ち振舞は、ごく自然なことなんだろう。――やっぱり、いい男だな。
なんだか、ますます妬けてくる。この妬ける気持ちは、アオバに対してなのか、それとも頬を染めてアオバを見ていた店員さんに対してなのか。自分でもよく分からなくて、胸の奥がモヤモヤする。
アオバは、そんな俺の焦れた視線には気付かずに、アイスティーを一口飲んでから、前のめりになって俺に微笑みかけた。
「ねえ、ご飯食べたら、オレ達も川の方に降りてみない?」
「水遊びでもすんの?」
「うん。ちょっと汗かいたし、浅瀬があったら涼んでいこうよ。それに、さっき駅で貰った観光案内にさ――」
アオバはテーブルの隅に、小さく畳んだ紙を広げ、指を差す。
「この辺、渓谷の眺めがいいって書いてあるんだ。こういうのはやっぱり、自分の足で見に行かなくちゃ」
「うん。そうだな。そうしようか」
相談していたら、二人のお腹が「早くサンドイッチをくれ」と言わんばかりに、きゅうっと鳴った。
思わず顔を見合わせて、苦笑いした。
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