*第十一話:残暑の渓谷【side Tetsu】

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「お待たせいたしました」  先程の若い女の店員さんがやってきて、サンドイッチの乗った皿とアイスティーの入ったグラスを、テーブルに置いた。 「おっ、美味しそう。いただきます」  振り返ったアオバは、店員さんに向かって白い歯を見せてニッコリと微笑んだ。  アオバからスマイルを贈られた店員さんは、頬に落ちる栗色の後れ毛をサッと耳にかけ直しながら、頬を薄っすらと赤くして会釈をした。オイオイオイ……。 「いただきます!」  意地を張りたい気分になって、負けじと俺も、店員さんに向かって微笑んだ。  頬を赤らめていたかどうかは分からないけれど、店員さんはニコリと微笑み返して、それからパントリーに入っていった。  えーと……これってやっぱり、アオバの方に軍配が上がる感じなんだろうか?  なんとなく悔しい。  俺はお冷の入ったグラスをあおった。氷をガリガリと噛みながら、正面に座るアオバを見る。  アオバは店員さんの反応なんか、全然気にしてる風でもない。つまりこいつにとって、ああいう爽やかな立ち振舞は、ごく自然なことなんだろう。――やっぱり、いい男だな。  なんだか、ますます妬けてくる。この妬ける気持ちは、アオバに対してなのか、それとも頬を染めてアオバを見ていた店員さんに対してなのか。自分でもよく分からなくて、胸の奥がモヤモヤする。  アオバは、そんな俺の焦れた視線には気付かずに、アイスティーを一口飲んでから、前のめりになって俺に微笑みかけた。 「ねえ、ご飯食べたら、オレ達も川の方に降りてみない?」 「水遊びでもすんの?」 「うん。ちょっと汗かいたし、浅瀬があったら涼んでいこうよ。それに、さっき駅で貰った観光案内にさ――」  アオバはテーブルの隅に、小さく畳んだ紙を広げ、指を差す。 「この辺、渓谷の眺めがいいって書いてあるんだ。こういうのはやっぱり、自分の足で見に行かなくちゃ」 「うん。そうだな。そうしようか」  相談していたら、二人のお腹が「早くサンドイッチをくれ」と言わんばかりに、きゅうっと鳴った。  思わず顔を見合わせて、苦笑いした。
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