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俺は膝を上げて、濡れた岩の上にぺたんと足を置いた。膝のあたりにある、白く盛り上がった大きな傷痕を指差して見せる。
アオバは何かに納得するような顔で、何度も頷いた。
「あー、この傷がそうなの? エッチしてる時、ちょっと気になってたんだ」
「……ばか」
ベッドの中で、体の隅々までキスをされた時の記憶が甦って、頬が熱くなった。
アオバは少しかがんで、俺の膝に顔を近づけて笑う。
「だいぶ派手に切ったんだね」
「えらい目立つよな。痕がかなり残っちゃって。縫った医者が下手だったのかな」
アオバは指先で傷痕を何度か撫でて、それからそこに、ちゅっとキスをした。
ドキンとして息を呑む。
思わずきょろきょろと周りを見渡した。遠くの方に先程の家族連れが見える。でも、こちらの様子には誰も気付いていないみたいだ。
「……てっちゃんの故郷に、オレも行ってみたいな」
「えっ?」
「5月の旅行の時は、立ち寄らなかったけどさ。でもやっぱり、いつかは行ってみたい」
アオバは俺の膝小僧を見つめたまま、なんだかものすごく、しみじみと感慨深そうに言う。
俺は頬を掻いて苦笑いした。
「ただの田舎だよ?」
「てっちゃんがどんな場所で、どんな風に育ったのか、もっと知りたいんだ」
「……」
「転んで足を切った川がどこにあるのか、どんな道を歩いて学校に通ったのか、どんな家で、家族とどんな風に過ごしたのか……そういう事をさ」
そう言って、アオバは立ち上がり、無邪気に微笑んだ。
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