*第十一話:残暑の渓谷【side Tetsu】

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 俺は考え込むように、まるで独り言みたいに呟いた。  アオバは俺の手を離し、目を反らしながら 「……わからない」  と呟き、それから 「もし周りが何か言ったら、てっちゃんどうする? 今までのこと、無かったことにすんの?」  と、ぽつりと言った。  俺はハッとなって顔を上げた。  アオバの前でこんなに動揺してしまったら、俺までアオバとの仲を、否定的に(とら)えているみたいじゃないか。  大事なのは、周りからの視線や意見よりも、アオバと築き上げてきた絆のはずなのに。  俺はどんな時も、アオバの味方でいたいのに。  アオバを傷つけてしまったような気がして、きゅっと胸が苦しくなる。  俺は慌てて(すが)るような目で、アオバの顔を覗き込んだ。 「……ごめん、アオバ」 「何謝ってんの? てっちゃんは深く考え過ぎだよ。今はそんなどうなるか分からないことまで、考えたって仕方ないじゃん」  アオバは俺を安心させるように、ぱっと笑顔を作った。笑っているけど、やっぱりその表情は、どこか悲しげに見える。  改めて考えてみると、アオバはこんなにいい男なのに、何故人前で堂々と「俺の男だ」と主張することさえはばかられるのか、理不尽に思えてきた。  そして無性に悲しくなった。  俺達の関係はこんなに悲しいものだったんだろうか?  もっと穏やかで、心安らぐものだったはずなのに。
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