*第十一話:残暑の渓谷【side Tetsu】

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 アオバはくるりと俺に背を向け、川の上流に向かって歩きだした。  冷たい水に浸かってほんのりと赤くなった足が、飛沫を上げながら水の流れを割っていく。 「……アオバ、待ってよ」  アオバは岩や水の深みを避けながら、川の中をどんどん進んでいってしまう。  俺は必死の思いで、それを追った。 「俺、アオバのこと傷つけた?」 「そんなことないよ」 「嘘だろ、嫌な気持ちにさせたんだろ」  アオバはぴたりと足を止めた。 「大丈夫だよ。オレ、そういうの考え尽くして、もう慣れてんだ」  アオバは振り返らずに、ごく明るい調子で言った。  俺も足を止めて、汗染みの出来た背中を見つめる。 「そりゃ、色々言う人はいるだろうね」 「……」 「だけど、だからって周りに合わせて、一生自分を抑え込んで生きていくなんて、絶対できっこないよ。てっちゃんだって、そういうの、よくわかるでしょ?」 「……」 「結局ね、その辺はうまいこと器用に、空気読んで、調子よく、騙し騙しやってくしかないんだよ」 「……」 「それが出来なきゃ、仕方がないんだよ」  肩越しに振り返って、アオバはニヤッと不敵に笑った。 「慣れなんだよなあ、何事も」  その笑顔が、俺は無性に悲しかった。  そして寂しかった。目の前のアオバが、遠い存在のように、そしてひどく孤独に見えた。
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