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アオバはくるりと俺に背を向け、川の上流に向かって歩きだした。
冷たい水に浸かってほんのりと赤くなった足が、飛沫を上げながら水の流れを割っていく。
「……アオバ、待ってよ」
アオバは岩や水の深みを避けながら、川の中をどんどん進んでいってしまう。
俺は必死の思いで、それを追った。
「俺、アオバのこと傷つけた?」
「そんなことないよ」
「嘘だろ、嫌な気持ちにさせたんだろ」
アオバはぴたりと足を止めた。
「大丈夫だよ。オレ、そういうの考え尽くして、もう慣れてんだ」
アオバは振り返らずに、ごく明るい調子で言った。
俺も足を止めて、汗染みの出来た背中を見つめる。
「そりゃ、色々言う人はいるだろうね」
「……」
「だけど、だからって周りに合わせて、一生自分を抑え込んで生きていくなんて、絶対できっこないよ。てっちゃんだって、そういうの、よくわかるでしょ?」
「……」
「結局ね、その辺はうまいこと器用に、空気読んで、調子よく、騙し騙しやってくしかないんだよ」
「……」
「それが出来なきゃ、仕方がないんだよ」
肩越しに振り返って、アオバはニヤッと不敵に笑った。
「慣れなんだよなあ、何事も」
その笑顔が、俺は無性に悲しかった。
そして寂しかった。目の前のアオバが、遠い存在のように、そしてひどく孤独に見えた。
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