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俺はザブザブと足で水をかき分けた。
流れに押されて転ばないように、川の中の小石を指でぐっと踏みしめる。
アオバの側まで追いつくと、その手首を掴んで、すぐ側にある、自分たちの背丈以上もある大きな岩の陰まで歩いていった。
そして川の流れにに足を浸けたまま、俺はアオバを岩に押し付けて、噛み付くようにキスをした。
灰色の岩肌は日陰になっていて、手を着くとひんやりと冷たい。
アオバは突然のことに、戸惑ったみたいだ。
「……てっちゃん」
たしなめるように小声で言って、肩を撫でてくる。
それに構わず、俺はアオバの唇をこじ開けて、舌を探った。アオバは少しもがいたけど、岩肌に身体をぐっと押さえつけて唇の角度を深くすると、すぐに大人しくなった。
絡み合った熱い舌をほどいて、肩で息をした。唾液の糸が、唇と唇の間をツーっと伝い落ちる。
そこまでしてから、ようやく周囲をキョロキョロと見渡した。
木々に囲まれた、だいぶ奥まった場所までやってきていた。
俺達以外に、人影は無い。風と川のせせらぎと鳥のさえずりが聞こえてくる以外に、気配もない。
アオバは再び、たしなめるように俺の腕や肩を擦った。
「てっちゃん、いいんだよ」
「……何が」
「気ィ使ってくれてんだろ。オレは大丈夫だって」
「……」
「いいんだよ。オレはてっちゃんに嫌われなかっただけでも、幸せ者だと思ってんだ。……ありがとう」
そう言って、優しく髪を撫でてくる。
悔しさのような、切なさのような、なんとも言い難い狂おしい感情がこみ上げた。
アオバに尽くしてやりたいと、無性に思った。
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