*第十一話:残暑の渓谷【side Tetsu】

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 堪えきれず、その場に膝を着く。川の流れが俺の足元をすり抜け、膝までまくり上げたズボンがたちまち水を吸う。  俺は半分やけくそみたいに、アオバの股間にぐっと顔を埋めた。  アオバがビクンと体を震わせ、背後の岩に背中を押し付けるように後退りする。  汗の湿度の混じった、雄の匂いが鼻腔をくすぐった。嗅いだだけで、ジンと下半身が疼く。数ヶ月前の自分だったら、こんなことは考えられない。  時々アオバがそうしてくれるように、俺もここにむしゃぶりつきたい――どうして、こんな感情が湧いてくるんだ? 『屋外じゃねえか』と、俺の心の冷静な部分が警鐘を鳴らしている。  いつだったか、上野の公衆トイレで、男同士のセックスの現場に出くわした。あの時、俺はめちゃくちゃビビったし、奴らの節操の無さに腹も立った。俺のしようとしていることは、それと同じだ。やっぱりこんな場所で、こんなことしちゃいけない――  アオバの太ももにしがみついたまま、葛藤する。  アオバは慌てて周りを見渡し、本気で困ったような顔で俺を見下ろした。 「てっちゃん、駄目だよ」  眉間にしわを寄せて咎めつつも、その頬は薄く上気して、目には高揚の色が浮かんでいる。  悦んでるんだ――そう思ったら、水の中に墨汁を一滴垂らしたみたいに、ふわっと俺の胸に安堵が広がっていった。  ああ、わかった。  俺は贖罪のような気持ちで、こうしてアオバにしがみついてるんだ。  俺はアオバみたいに言葉がうまくないから、行動で示すしかないんだ。  アオバの存在を大切に思っていると、この先誰が何と言ったって、この関係を失いたくないと、お前の為なら俺はなんだってしてやれるんだと……そう伝わってほしい。  それにしたって、その行動の結果がコレって、自分で言うのも何だけど、俺は馬鹿なんだろうか?
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