*第十一話:残暑の渓谷【side Tetsu】

12/13

483人が本棚に入れています
本棚に追加
/165ページ
 馬鹿なことをしていると思いつつも、動き出した自分の手を止められない。  目の前のベルトを外し、ジッパーを下げる。むっとした熱気を、鼻先に感じる。  俺はボクサーパンツ越しに、そこにキスをした。コリコリと硬さを持ち始めている。首を傾け、何度も唇でついばむと、少しずつ硬さが増していく。  チラリと目だけでアオバを見上げた。  太陽の眩しさに、目を細める。逆光の中に、徐々に興奮に取り憑かれていくアオバの目が見える。  ボクサーパンツの履き口から、いつの間にか、勃起した先端が覗き始めていた。  俺はごくりと唾を飲み、深呼吸をした。  緊張と興奮に震えながら、下着に手をかけ、ゆっくりと下ろそうとする――その手を、アオバが掴んだ。  不安に襲われながら、顔を上げる。 「……嫌なのか?」  アオバは静かに、首を横に振った。 「ううん、すげー嬉しいよ。でも今日はやめとこう」 「なんでだよ」  汗っぽい俺の髪を優しく撫でながら、アオバは微笑む。 「そんな辛そうな顔してる時に、させられないよ」 「……してねえよ」 「してるよ」 「…………」  俺はぐっと目を閉じて、項垂(うなだ)れた。  そのままアオバの太ももに、ガツガツと何度も頭突きをする。  一体何をやっているんだろう。  というか、俺はこんな時に、こんな事しか出来ないのか? 情けなくて、辛い。  体の力が抜ける。アオバにしがみついたまま、ずるずると体勢が崩れていった。川の水が、俺の膝から太もものあたりを乗り越えて、流れていく。  肌が痛くなるほどに、水は冷たかった。
/165ページ

最初のコメントを投稿しよう!

483人が本棚に入れています
本棚に追加