*第十一話:残暑の渓谷【side Tetsu】

13/13

483人が本棚に入れています
本棚に追加
/165ページ
 * * *  日が傾いてからも気温はそこそこ高かった。だから寒さに凍えるほどではなかったけれど、ズボンや下着が濡れたままバイクを走らせたせいで、体温を奪われてしまった。  信号待ちをしながら、ぶるりと震える。  風邪を引きそうだ。  帰り道の途中、俺達はセルフ式ガソリンスタンドで給油し、ついでに休憩所に入った。  自販機の前に立ち、温かいお茶を探す。  しかし季節柄か、そこには青いボタンしか並んでいない。俺は仕方なく、冷たい緑茶のボタンを押した。  冷え切った手で、取り出し口からペットボトルを取る。 「体、冷えちった」  振り返って、空いた方の左手をアオバに差し出した。  アオバはその手を取り、体温を確認するように、ギュッギュッと何度か握った。  それから手の甲に唇を押し当て、俺の耳元に顔を近付けてくる。 「……帰ったら、一緒に暖まろう」  俺は体の芯が熱くなるのを感じながら、黙って頷いた。 「オレ、やっぱり外よかベッドの上でしたいもん」  そうささやいて、アオバは笑った。  周囲を見渡し、人の気配を探る。  夜のガソリンスタンドの休憩所は、静まり返っている。  俺はアオバの手首を掴み、その体を(いざな)った。  鼻先と鼻先が触れた時、ふと視線を天井の方に向けて「あっ」と思った。  ――防犯カメラがある。  でもそんなことは、なんだかどうでもよくなってしまっていた。  自販機の影に隠れて、俺はアオバの首に手を回し、目を閉じた。そして温もりを求めるように、暖かく柔らかなキスに没頭した。
/165ページ

最初のコメントを投稿しよう!

483人が本棚に入れています
本棚に追加