*第十二話:最果てで二人【side Aoba】

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 部屋に外の空気を入れようと思って、窓を少しだけ開けた。  秋も深まる10月。湿度が下がり始めた夜風に、微かに冬の匂いが混じる。  暑くもなく寒くもない、快適なバイクライフを送ることが出来るのも、今月中までだろうか。  振り返ると、てっちゃんがソファにもたれ掛かって、真剣な顔で地図帳を眺めている。  虫が部屋に入らないように網戸を閉めてから、オレはてっちゃんの隣に戻った。 「こういうさあ、海沿いにある、尖った形の場所って気にならない?」  てっちゃんは地図を指でなぞりながら言った。  その手元を覗き込む。てっちゃんの人差し指は、千葉県の内房(うちぼう)にある、富津岬(ふっつみさき)を指していた。 「ああ、わかる。最果ての地って、何故か心惹かれるものがあるね」 「うん。海岸沿いを走って岬めぐりとか、よくない?」 「いいねえ。旅のロマンだなあ」 「そうそう。そんで走り続けて最後は、北海道の最北端・宗谷岬(そうやみさき)にたどり着く、と。一度は憧れるよね、そういう旅って」  地図帳に視線を落としたまま、てっちゃんはオレの肩にそっと体重を預けてくる。  触れ合った部分から伝わる、温もりが心地いい。  オレもてっちゃんの肩にもたれ掛かるように寄り添って、人差し指で地図帳に円を書いた。 「それじゃあ、明日は富津岬のあたりまで走ろうか?」  そう提案してみると、てっちゃんはオレの肩に手を回しながら、 「そうしよっか」  と微笑んで、頬にそっとキスをしてくれた。  オレは間近にあるてっちゃんの顔をぼんやりと眺め、唇が触れた頬を指先でなぞった。  時間差を置いて、体がポッと熱くなってくる。  最近、てっちゃんがやけに優しい。……いや元々優しいけど、こういう些細な仕草がものすごく穏やかで、愛情めいているんだ。その優しさに触れる度に、オレはキュンとしてしまう。
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