*第十二話:最果てで二人【side Aoba】

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 * * *  次の日のツーリングは約束通り、千葉県の内房への旅。  空は曇り空だった。  朝の天気予報では雨は降らないと言っていたけれど、一応雨具をバイクに積んで、東京湾沿いに続く湾岸道路を延々と走った。  目的地に近付くにつれ、白くくすんだ空は、だんだんと濃い灰色になっていった。  少し、嫌な予感がする。  富津岬に到着し、ヘルメットを脱いで空を見上げた。 「もしかして、雨、来そう?」  隣でてっちゃんも空を見上げている。  ポケットからスマホを取り出し、画面を見る。予報は『18時頃から小雨』に変わっていた。 「多分、まだ大丈夫。でも少し急ごうか」 「うん」  岬には、鉄とコンクリートの城のような、巨大な展望台がぽつんと鎮座していた。  足音を響かせながら、展望台の階段を、てっちゃんの後に続いて登っていく。  途中で何度も後ろを振り返った。  眼下には、ずっと先まで続く海岸、そして陸地。犬の散歩をしている人が見える。だけど天気も悪いせいか人の数はまばらで、なんだか寂しい風景だ。  展望台の頂上に辿り着くと、思わず溜息が出た。 「すげー……いい眺め」  隣りでてっちゃんも感嘆(かんたん)している。  柵の側に近づいて、東京湾を一望する。果てしなく続く、暗い色の海、灰色の空―― 「あっちが三浦半島?」  てっちゃんが海に向かって指を差す。 「そうだね。天気が良かったら、景色ももっとよく見えたんだろうけど」  そう言って、オレはてっちゃんの肩を抱いた。  展望台の頂上には、オレ達の他には誰もいない。てっちゃんもそれを分かっているからか、何も言わずにオレに身を委ねている。  今日はちょっと潮が高い。  防波堤に打ち付ける波の泡を見下ろしていると、だんだんと海の恐ろしさに身を包まれる。てっちゃんの肩を抱く手にも、無意識に力がこもった。  ――なんだか、てっちゃんとこの世に二人きりになったような気分だ。  なんにもない黒い海原を見つめながら、ぼんやりとそう思った。
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