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次のポイントを目指して走っていると、ヘルメットのシールドにぽつぽつと水滴が落ちてきた。
時計を見る――まだ昼過ぎだ。
ただの気まぐれな小雨ならいいけれど、なんだか雨粒の大きさが、どんどん大きくなっていくような気がする。
オレはシールドを上げて、空を見上げた。
空の色は富津岬を出た時よりもさらに暗く、雨足はこれからもっと強くなりそうな予感がする。
――なんだよ、天気予報、全然当たってないじゃないか!
いやいや、予報はあくまで予報だ。
ライダーたるもの、もっと空や風の気配を読めるようにならなきゃ。
とにかく一旦停車して、雨具を装着しよう。
インカムでてっちゃんに指示を出そうとすると、あるものが視界に飛び込んできた。
それは色あせた看板だった。
草木と遠い田舎の風景と、延々続くガードレール以外に何もない県道。そこにぽつんと現れた、赤い矢印。
「てっちゃん、この先左折!」
それに導かれるように、オレは看板の示す方向へウィンカーを出していた。
鬱蒼とした小道を進む。
少し奥まった場所に現れたのは、古びたモーテル――つまり、ワンルーム・ワンガレージ式のラブホテルだった。
「ラブホかよ」
てっちゃんがヘルメットのシールドを上げて、ちょっと呆れたように言う。
「しょうがないじゃん。落ち着いて停車できそうな手頃な場所が、他に無かったんだもん。ちょうどいいから、ここで少し雨宿りしていこうよ」
「……なんか、絶対雨宿りだけじゃ済まされないような気がするんだけど」
てっちゃんは意味ありげに、クイッと口角を上げた。
オレは答えずに、ニヤニヤと笑いながら、バイクをガレージの中に押していった。
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