*第十二話:最果てで二人【side Aoba】

7/19

483人が本棚に入れています
本棚に追加
/165ページ
 * * *  次のポイントを目指して走っていると、ヘルメットのシールドにぽつぽつと水滴が落ちてきた。  時計を見る――まだ昼過ぎだ。  ただの気まぐれな小雨ならいいけれど、なんだか雨粒の大きさが、どんどん大きくなっていくような気がする。  オレはシールドを上げて、空を見上げた。   空の色は富津岬を出た時よりもさらに暗く、雨足はこれからもっと強くなりそうな予感がする。  ――なんだよ、天気予報、全然当たってないじゃないか!  いやいや、予報はあくまで予報だ。  ライダーたるもの、もっと空や風の気配を読めるようにならなきゃ。  とにかく一旦停車して、雨具を装着しよう。  インカムでてっちゃんに指示を出そうとすると、あるものが視界に飛び込んできた。  それは色あせた看板だった。  草木と遠い田舎の風景と、延々続くガードレール以外に何もない県道。そこにぽつんと現れた、赤い矢印。 「てっちゃん、この先左折!」  それに導かれるように、オレは看板の示す方向へウィンカーを出していた。  鬱蒼とした小道を進む。  少し奥まった場所に現れたのは、古びたモーテル――つまり、ワンルーム・ワンガレージ式のラブホテルだった。 「ラブホかよ」  てっちゃんがヘルメットのシールドを上げて、ちょっと呆れたように言う。 「しょうがないじゃん。落ち着いて停車できそうな手頃な場所が、他に無かったんだもん。ちょうどいいから、ここで少し雨宿りしていこうよ」 「……なんか、絶対雨宿りだけじゃ済まされないような気がするんだけど」  てっちゃんは意味ありげに、クイッと口角を上げた。  オレは答えずに、ニヤニヤと笑いながら、バイクをガレージの中に押していった。
/165ページ

最初のコメントを投稿しよう!

483人が本棚に入れています
本棚に追加