*第十二話:最果てで二人【side Aoba】

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 * * *  部屋の扉を開け、内装をぐるりと見渡す。昭和の雰囲気という感じだ。  建物の外観はお化け屋敷みたいに古かったけど、中は案外、清潔に整っている。  部屋に入るとすぐに、てっちゃんは雨に濡れた上着を脱いで、ハンガーにかけ始めた。  オレもその後ろで上着を脱いで、ぱぱっと水滴を払うと、大雑把に広げてソファの端に掛けた。  ふうっと息を吐く。  ……一息ついたら、なんだかちょっと、緊張してきた。 「てっちゃん、水飲む?」 「うん」  オレはつかつかと冷蔵庫の側に近付き、扉の前にしゃがみこんだ。  ふとその隣を見ると、大人のおもちゃの販売機が置かれている。  ごくりと生唾を飲み込む。  ラブホテルの中は、ささやかな非日常の世界だ。  生活感の無い、セックスをする為だけに作られた部屋に来ている――そういう意識が、ムラムラと気分を高揚させた。  てっちゃんは今、どんな気分でいるんだろうか?  水のボトルを持って立ち上がり、振り返ると、てっちゃんは足を床につけたままベッドに横になって、天井を見上げていた。 「はー……こんなとこ来るの、久しぶりだなぁ」  その呑気な声に、思わずピクッとこめかみが痙攣した。  あまりにしみじみとしたその口調に、『元カノを思い出してんのか?』という疑念が湧いた。  率直に言えば、オレはヤキモチを焼いてしまったのだ。  無言で、ジッと睨むようにてっちゃんを見下ろす。  その視線の意味に気付いたのか、てっちゃんは慌てて体を起こした。 「あ……ごめん」 「なに、その『去年元カノと来て以来だなあ』みたいなの。無神経だなー」 「ごめんってば」  てっちゃんは気まずそうに謝ってくる。  オレはちょっと意地になって、ムスッと横を向いた。
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