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「オレ、てっちゃんが好きだもん」
俺は顔を上げた。
アオバの目はやっぱりガラス玉みたいにキラキラしていて、視線はじっと海の向こうに向けられていた。
言葉に詰まってしまった。胸がジーンとするような、キューンとするような感じがして。
アオバの奴、きっと俺を元気付けようとしてくれてるんだ。
さっきは『彼女とのことは吹っ切れてる』なんて言ったけど、本当はそうじゃなかった。理由も告げられないまま人に嫌われるのって、結構ショックだもの。俺ってば自分でも気付かないうちに、人をたくさん傷つけてるんだなって思うと、自分の事が嫌になったりして。
だけどアオバの言葉は、こんな俺にも少しは良いところがあるって言ってくれてるみたいで、嬉しかった。だから俺はアオバに
「いい奴だな、お前」
と、素直な気持ちでそう言った。
そしたらアオバは眉毛をハの字にして、口をへの字にして――とにかく、そんな渋いような、複雑そうな顔をしてから
「……てっちゃんだって、いい奴さあ。いつでもオレと一緒に走ってくれるしね」
と、そう言って笑った。
それからしばらくの間、俺達はケーキを食べながら、ただ黙って海を眺めていた。
初日の出を見逃したことが、少し惜しくなった。
目の前で海鳥が、海岸に打ち上がった魚をつついている。そこに大きな波が押し寄せて、足を取られた海鳥は羽ばたいた。白い翼が、青空を大きく旋回した。
俺は立ち上がって、尻に付いた砂を払った。
肩をつつかれて顔を向ける。
「これから初詣に行くか、それともラーメン屋に行くか。せーのでお答えください」
アオバは俺の顔の前に人差し指を突き出し、ニヤッと笑った。
「せーの――」
「「ラーメン」」
見事にハモった。
――そう言うだろうと思ってたよ。
答えた後で、俺は『ケーキを二つも食った後にラーメンか。俺の胃は、体脂肪は大丈夫なのだろうか』と心配になり始めた。だけどアオバが楽しそうに笑っているから、まあいいか、という気持ちにもなっていた。
バイクにまたがり、エンジンをかけた。
その鼓動が身体に伝わってくる。
ギヤを1速に入れて、アオバと目で合図をしてから、ゆっくりとクラッチレバーを離しアクセルを開ける。
ブオン! とマフラーが息を吐いた。
軽快な音と共にバイクは走り出す。
俺はバイクと一心同体になり、先を行くアオバの背を追って、ぐんぐんと加速していった。
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