*第十二話:最果てで二人【side Aoba】

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「…………」  散々に(わめ)き散らし、ハアハアと肩で息をした。  てっちゃんも呼吸を荒げながら、瞬きもせずにオレを見つめている。目の前の喉仏がゴクリと上下に動く。 「……俺が『挿れてくれ』って、そう言わなきゃお前、一生我慢するのか」  少し落ち着いたのか、てっちゃんは静かに低い声で言う。  オレも興奮を抑えるように、低い声で答えた。 「そうだ」 「俺が自分から求めるくらい、気持ちの上でもフェアになりたいってことか」 「そうだ!」 「……」  てっちゃんは眉間にしわを寄せて、また黙り込んだ。  何十秒、いや何分そうやって睨み合っていたんだろう。  シンと空気が静まり返る中、目の前の乾いた唇が、ゆっくりと開いた。 「……じゃあ…………『挿れて欲しい』」 「えっ?」  気まずい沈黙を破ったのは、震えるような、か細い声だった。  オレは急激に冷静さを取り戻し、気遣うように、てっちゃんの頬を撫でた。 「……てっちゃん。それ、オレが無理やり言わせちゃってる感じだよね?」 「…………」  てっちゃんはゆっくりと首を横に振る。 「そりゃあオレ、本当はてっちゃんともっと色んな事したいけど……だからって、てっちゃんに不満とか、他所で男遊びとか、そんなこと本当に無いよ?」  オレがそう言うと、今度はコクンと頷く。目を伏せたその表情は、しおらしく、不安げだった。  ああ、やってしまった―― 「ごめん、余計なこと言って、不安にさせたんだね。謝るよ」 「……」 「ちょっとヤキモチ焼かせたかっただけなんだよ。本当にオレ、今はてっちゃんだけだよ」 「いや、元はと言えば俺が……こっちこそ、ごめん」  てっちゃんをなだめるように、唇にちゅっとキスを落とした。 「いいんだよ」  そう言うと、てっちゃんは一瞬、らしくもない泣き出しそうな顔になって、オレにしがみつき――そしてキスをし返した。  ぎゅうっと抱き合って、舌を絡める。離れようとすると、その動きを追って、てっちゃんはさらに深い口付けを求めてくる。  オレ達は時間を忘れて、溶け合うようなキスを続けた。  切なくなった。  オレはいつの間に、こんなに愛されていたんだろう。  こんなに想ってくれているてっちゃんを試すようなことをして、オレは馬鹿だ。
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