*第十二話:最果てで二人【side Aoba】

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 * * *  汗ばんだ体を抱き合って、肌を撫でる。  てっちゃんはオレの肩にもたれ掛かって、うっとりと目を閉じて言った。 「昔な――」 「うん」 「高校生の頃、学校の近くに団子屋があったんだ。作りたての温かい団子に、みたらしをかけてくれんの」  ぽつりぽつりと、気怠く心地よい掠れ声が続く。 「部活の帰りに、俺、よくこっそり買い食いしてたんだ――ヤッてる最中に、なんとなく、そんな思い出が甦ったよ」  そう言って、てっちゃんは串を持つようなジェスチャーをしながら、プッと吹き出した。 「竹串でプスッと串刺しにされた団子……」  くつくつと肩を震わせるてっちゃんの隣で、オレもふふっと吹き出す。 「オレ、てっちゃんのこと串刺しにしちゃった……」  二人して、なぜか笑いが止まらなくなった。  オレは目を閉じて、頬の日焼けした学生服姿のてっちゃんを、ぼんやりと思い浮かべた。  今、オレの腕の中にいる人は、かつては『放課後に串団子をぱくついている上条(かみじょう)君』だったんだなあ。  そう思うとより一層、てっちゃんのことが愛おしくてたまらなくなった。 「オレ、本当にてっちゃんを大切にするつもりだったんだよ。何年でも、一生でも待つ気でいたのに」 「一生って……まあ、約5ヶ月も我慢してたんだから、アオバにしては上出来だったんじゃないの?」 「オレにしてはって、なんだよ、人をエロ猿みたいに」  わざとらしく口を尖らせてみせる。  てっちゃんは笑って、 「……っていうか、我慢させて悪かったよ」  と、気恥ずかしそうにオレの頬にキスをした。  オレはてっちゃんの唇に、ちゅっとキスをし返して、額と額を擦り合わせた。 「初めては、オレの部屋か、てっちゃんの部屋ですればよかったね」 「うん?」 「そしたら、このままゆっくり眠れたのに」 「俺はこのまま宿泊したっていいよ。明日日曜日だし」 「うーん。それでもいいけどさあ――」  少し渋ってから、オレはてっちゃんの耳元でささやいた。 「やっぱり、帰ろ。家のベッドの方が落ち着くから」  甘えるように額を擦り付けると、てっちゃんはワシワシとオレの頭を撫でてくれた。  温もりを抱き締め、うっとりと目を閉じる。  まぶたの裏でまた、学生服姿のてっちゃんが、オレに向かって笑顔で手を振った。
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